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まただ。またナナシが、人の死を言い当てた。
僕は震えながら、ゆっくりとナナシを見た。
ナナシは、震えもせず騒ぎもせず、窓の前に立っていた。
遠い目で窓を見ている。僕は、ナナシに駆け寄った。
「ナナシ、あれ…」
縋るように駆け寄った僕に、ナナシは振り返ることもせず言った。
「お前、なにか見た?」
なにか。
そんなの解りきっているというのに、白々しく尋ねてくるナナシに僕は無性に腹がたった。
「当たり前だろ!!お前が窓を見ろって言ったんじゃないか!!おかげで僕は目が合ったんだ!!見たんだぞ!!あの人が堕ちる一瞬を!!!」
僕は、あの死に行く人と目を合わせてしまったのだ。
悲痛と苦痛に染まった、間もなく死ぬであろう見知らぬ人と、目が合った。
一生トラウマになりそうな、表情を見たのだ。
「なら、いよいよオカルトだな。」
ナナシは言った。
僕にはその言葉の意味がわからなかった。わかりたくもなかった。だが、
「見てみなさいよ、下。」
さっきまで黙っていたアキヤマさんが、僕に言った。
僕は恐る恐る、人を掻き分けて下を見た。
そこには、こちらを向いて目を見開き、苦悶の表情を浮かべながら体を不思議な方向に曲げた死人がいた。
ドス黒い血が彼女の白いブラウスを赤茶に染めていて、僕は思わず目を反らした。
そして、気付いた。
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