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「俺の隣が母さん。2年前に、死んだ。」
ナナシは少し俯いて言った。
「その写真撮った次の日に、その写真撮った屋上から飛び降りた。」
淡々とした言い方だったが、それはナナシが背負ってきた悲痛が全て凝縮したような切ない響きを持っていた。
見事な夕焼けを背にして笑う親子、まさかそれが翌日には哀しい別れ方を迎えるなんて、哀し過ぎる。
「その写真、母さんの誕生日に棚整理してたら見つけてさ。半年くらい前。2年前に現像して見たときは、たしかに何も写ってなかったんだけど。そんとき改めて見たら、その靄が写ってて。」
僕は黙って聞いていた。
アキヤマさんも、じっと写真を見つめて黙ってた。
僕は今更、ならばさっき会った女の人は何だとか、わかりきった追求をする気はなかった。
ナナシといたら怖い体験をする、ってのは、それこそ今更だったし。
きっと、死んだあともナナシのお母さんは、ナナシが心配で、この家にいるんだろう。
遺して来たナナシが、心配なんだろう。
そう思った。
「その靄、手の形してるだろ?俺も最初は怖かったけど、
見てるうちに、きっと母さんが、俺を守ってくれてんだ、って思ってさ。」
その手が、きっと俺を守ってくれてるんだ、って思って。
ナナシは、そう言って笑った。
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