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「だから、飾っちゃってるわけ。マザコンぽくて、アレだけどな。」 ナナシは掠れ声でそう言うと、いつもより少し照れたようにヘラッと笑った。 僕はうっかり泣きそうになるのをグッと理性で押さえ、 「このロマンチストが」なんて馬鹿馬鹿しいツッコミを肘で入れた。 ナナシとは怖い体験も何度かしたけど、この話を聞いて、やっぱり僕はナナシを好きだと思った。 僕らを見て「ありがとう」と笑った、ナナシのお母さんの顔を思い出す。 僕は、ナナシとずっと友達でいよう、あのお母さんのぶんも、ナナシの傍にいよう、と心底思った。 そのとき、 「元気そうで何よりだわ。明日は学校で会いたいわね。」 と、アキヤマさんが唐突に言った。一瞬にして先刻までの感動ムードが吹っ飛ぶ。 アキヤマさんはそんな空気変化を無視し鞄を抱えて、お大事に、と一言掛けると、部屋を出た。 僕は一瞬呆気に取られたが、我に帰り、慌ててアキヤマさんを追い掛けた。 「また明日な!!!」 ナナシに声を掛けると、ナナシはいつものヘラヘラした笑顔で手を振った。 それを見届けてから、僕はアキヤマさんを追い掛けて広い廊下を走った。 あの女の人は、もういなかった。
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