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僕がナナシの家を出たとき、アキヤマさんはすでに数十メートル先を歩いていた。 僕は必死でアキヤマさんを追い掛け、並んだところでその肩を掴んだ。 「アキヤマさん!!」 「…なに」 アキヤマさんは振り返る。その顔に表情はなく、異様なくらいの冷たさを感じた。 「なんで、あんな言い方したんだよ。ナナシが可哀相じゃん、お母さんが…」 そこまで言って、僕は何も言えなくなった。アキヤマさんが、嫌悪と怯えを入り交じらせたような形相で、僕を睨んでいたからだ。 「…アンタ、本当にあれが『守り手』だなんて思ってんの?」 アキヤマさんが強い口調で言った。その真っ直ぐに向けられる視線は、信じられないとでも言うように僕を刺していた。 「だって…それしか」 「本当にそう思ってんならシアワセね。」 アキヤマさんは心底馬鹿にしたように言い放った。 「アタシには、あの手がナナシの首を絞めようとしているようにしか見えなかったわ。」 そう言うと、アキヤマさんは足を早め、帰っていった。曲がり角を曲がって、見えなくなるアキヤマさんを呆然と見送りながら、僕は、あの写真を思い出していた。 夕焼けを背にした親子、その翌日に飛び降りて死んだ母、息子の首元にかかる手型の靄。 そして、良好そうな体調の割に、酷く掠れた、ナナシの声。 もし仮にアキヤマさんの台詞が真実なら、僕らが見たあの人は、ナナシをどうするつもりだろう? 耐え難い悪寒と戦慄を感じ、僕は走った。嫌な予感が現実にならないのを祈りながら、ナナシの家が見えなくなるまで、走った。 翌日、ナナシはいつもどおり学校に来ていたが、声はさらに掠れていた。 このときすでにカウントダウンは始まっていたのかもしれないが、やっぱりそれは、今更の話。
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