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ナナシは僕にあの本を渡すと、視聴覚室の隅に立つよう命じた。僕は今から何が起こるかもわからないまま、素直に隅に立った。 ナナシは本から切り取ったページを片手に、すごい早さで黒板いっぱいに文字を書き出した。 英語なのか漢字なのかわからないが、みたことのない文章や図がズラリと並ぶ様は相当薄気味悪い。おまけにナナシは一言も喋ることなく、まさに一心不乱といった様子でカツカツと黒板にチョークを滑らせている。 「ナナシ、何だよこれ」 ナナシは答えない。 やがて書き終えたのか、ナナシがこちらに向き直る。その顔はいつものヘラヘラした笑顔だが、何かが違う気がした。 「それ、読んで。」 ナナシが本を指差す。雰囲気からして洋書かと思ったが、中は意外にも日本語で書かれたものだった。 なんと書かれていたかは今はもう覚えていないが、なんだか意味を成さないような不気味なものだったと思う。 それでも、怖いもの見たさもあったのか、僕は書かれた文章を読み上げた。 そのとき、聞き慣れた声がした。 「あんたたち何してんの?」 窓枠に寄り掛かり僕らに声を掛けてきたのは、他ならぬアキヤマさんだった。 「面白そうじゃない、あたしも混ぜてよ」 窓枠に足をかけ、中に入ろうとする。怪しい行為をしていた最中だったのでにちょっと僕もビビッたが、久しぶりにアキヤマさんと話せることが嬉しくて、僕はアキヤマさんに駆け寄った。 そのとき。 「アブないぞ、ソレ。」 ナナシがアキヤマさんを指差した。そのナナシの物言いにカチンと来た僕は、ナナシに抗議した。 「ソレってなんだよ、おま…」 「よく見ろよ、ソレはどっから来た?」 「どこって窓からに決まって…」 そこで、めちゃくちゃ遅ればせながら気付く。ここは視聴覚室。 ----3階だ。
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