目の合わない人形

4/5

401人が本棚に入れています
本棚に追加
/41ページ
それは、ちょっと煤けていたけど、立派な女の子の人形だった。フランス人形か何かだろうか、青い瞳を伏せている。 「ああ、それか」 ヤナギが人形を持ち上げる。 「これは特に不気味なもんじゃないんだけど、変わった作りがしてあってさ。」 ココ、と、ヤナギが人形の瞳をつつく。 「なんか、角度や色が細かく計算してあって、絶対に目が合わないようになってんだよ。」 なるほど、確かに目が合う人形は山ほどある、というかむしろ人形とは目は合うものだが、絶対目が合わない人形とはめずらしい。僕も人形をヤナギから受けとり、目を見てみた。 確かに、微妙に目の焦点がズレて見える。 「へぇ。こいつは面白いな」 僕は人形を色んな位置に移動させて、目を合わせようと試みた。けど、やはり目が合わない。どこか違う方を見ている。 そのとき、気付いた。 どんなに移動させようと、角度を変えようと、目の合わない人形。その人形が、僕から目をそらし、見ている一点。 それは、 ナナシだった。 「え?え?」 僕は場所を変え角度を変え、立ち位置を変え、人形を動かした。しかし、どんなにそれらを変えても、目の合わない人形はナナシの方を見ていた。 どの位置に立っても、ナナシがいる方に目線が向いている。じっと、睨みつけるように。 おかしい。 オカシイオカシイオカシイ。 僕はパニックになって人形を揺さぶっていた。怖くて怖くて仕方なかった。どうしてナナシの方を見るのか。どうして。 そのとき。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

401人が本棚に入れています
本棚に追加