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それは、ちょっと煤けていたけど、立派な女の子の人形だった。フランス人形か何かだろうか、青い瞳を伏せている。
「ああ、それか」
ヤナギが人形を持ち上げる。
「これは特に不気味なもんじゃないんだけど、変わった作りがしてあってさ。」
ココ、と、ヤナギが人形の瞳をつつく。
「なんか、角度や色が細かく計算してあって、絶対に目が合わないようになってんだよ。」
なるほど、確かに目が合う人形は山ほどある、というかむしろ人形とは目は合うものだが、絶対目が合わない人形とはめずらしい。僕も人形をヤナギから受けとり、目を見てみた。
確かに、微妙に目の焦点がズレて見える。
「へぇ。こいつは面白いな」
僕は人形を色んな位置に移動させて、目を合わせようと試みた。けど、やはり目が合わない。どこか違う方を見ている。
そのとき、気付いた。
どんなに移動させようと、角度を変えようと、目の合わない人形。その人形が、僕から目をそらし、見ている一点。
それは、 ナナシだった。
「え?え?」
僕は場所を変え角度を変え、立ち位置を変え、人形を動かした。しかし、どんなにそれらを変えても、目の合わない人形はナナシの方を見ていた。
どの位置に立っても、ナナシがいる方に目線が向いている。じっと、睨みつけるように。
おかしい。
オカシイオカシイオカシイ。
僕はパニックになって人形を揺さぶっていた。怖くて怖くて仕方なかった。どうしてナナシの方を見るのか。どうして。
そのとき。
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