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「ホラ、いい加減にしろ。」
ナナシが僕の手から人形を奪うと、元の場所に置いた。僕は汗だくになっていた。
「悪いなヤナギ、こいつ夢中になると我を忘れるから。でも面白いな、親父さんのコレクション」
ナナシがヤナギに詫びを入れ、ほかに話を振る。ヤナギも特に何か疑う様子もなく、話をしている。それでも僕は、やっぱり人形を見ていた。
人形は、やっぱりナナシを睨みつけていた。
しばらくお喋りをして、僕とナナシはヤナギの家を後にした。
帰り道、僕はナナシに思い切って言った。
「ナナシ、あの人形…」
「ずっと俺のほう見てただろ?」
やっぱりナナシはわかっていた。ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべながら、僕を見る。
「なかなかお前も、だいぶカンがよくなったじゃねぇか」
俺の教育の賜物だ、などとふざけたことを抜かすナナシに腹を立てつつ、半ば呆れて僕は言った。
「お前、よく怖くないよな。」
するとナナシは、ハッ、と鼻で笑うと、
「俺はお前の後ろに突っ立てた、手足がやたら折れ曲がった女のが怖かったぜ?」
ベキベキベキって、聞こえてきそうでさ。
と、言った。
僕は急速に体が冷えてくのを感じた。
「ん?知らなかった?」
ナナシはケラケラ笑って、
「『知らぬが仏』って、ホント名言だよな。」
と言った。
どこかで聞いたセリフだと頭の隅で感じながら、僕は走ってその場を去った。
それから僕がヤナギの家に行くことは、二度となかった。
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