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「大門通の裏手に、アパートがあるだろ。あそこにいこう」
そのアパートの存在は、僕も知っていた。もっとも、心霊スポットだとかオカルトな意味じゃない。天空の城ラピュタとかに出てくるような、蔦や葉っぱに巻かれたアパートで、特に不気味なアパートってわけではないが、入居者はおらず、なのに取り壊されることもなく、数年…下手したら数十年、そこに在り続けているアパートだ。
「あんなとこ行っても、なんもねーじゃん。幽霊がいるワケじゃなし」
「いいから。あそこにしよう。」
ナナシは渋る僕を強引に説き伏せ、結局、翌日の終業式のあとに、そのアパートに向かうことになった。
時刻は午後4時36分。
僕らはアパートの前にいた。終業式を終え、昼飯を食べてから、しばらく僕らは僕の部屋でゲームなんかをしたりした。
何故すぐにアパートに向かわなかったのか、向かわないことを疑問にも思わなかったのか、あの時の僕にはわからなかったし、今の僕にもわからない。
ただ、すぐにあのアパートに向かわなかったことを、僕は未だに後悔している。
否、あのアパートに行ってしまったことを、後悔してるのかもしれない。
とにかく、しばらく遊んだあと、唐突にナナシが
「さ、そろそろかな。」
と言い、僕はナナシに手をひかれてあのアパートに向かった。
そのときのナナシの横顔が、なんだか嬉々としていたような、逆に悲しげなような、なんとも言えない表情だったことを、僕は忘れないだろう。
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