屋上にはナナシがいた

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昨日、無事に就職したことを報告する為に今は亡き親友の墓参りに行って来た。その小さな墓前にはあいつの好きだった忽忘草の押し花が置かれていた。 「死んだ人間は生きてる人間が覚えててくれるけど、死んだ人間に忘れられた生きてる人間は、どうすればいいんだろうな」 そんなふうに笑っていたのを思い出す。 そして思い出す。あの日の事を。 その日、前日の夜のことを引きずったまま僕は学校に行った。 やっぱりナナシはいなくて、アキヤマさんは何事も無かったように教室にいた。話し掛けてみたが、やはりいつもと変わらなくて昨日のことは全部夢か嘘みたいに思えた。 そうだ、あの変なものはたまたまかち合ってしまっただけだ。あの悲鳴はナナシがタンスに足でもぶつけたんだ。そんなふうに無理矢理解釈しようとした。 そして授業が終り、僕は荷物をまとめていた、そのときに。 「藤野、ちょっと、い?」 アキヤマさんが僕を呼び止めた。何?と聞き返すが、アキヤマさんは 「ちょっとついてきて」 と言うだけだった。仕方なく僕はアキヤマさんの後に続くことにした。 連れて来られたのは、僕も何度かお世話になった大きな病院だった。アキヤマさんは無言で中に入り、僕も後を追ううちに、屋上にやってきた。 …寒気がした。 そこは、ナナシの持つお母さんとの写真に写っていた、あの場所だったから。 「こっからね、おばさんは落ちたんだよ」 アキヤマさんは言った。ゾッとするほど淡々とした声だった。 「あたしがお見舞いに来たときにね、落ちてきたの。あたしの目の前に。ケラケラ笑いながら。顔がゆっくりグチャッて潰れてね、気持ち悪かった。」 いつも無表情なアキヤマさんが顔を歪めていた。僕は何も言えず、黙って聞いていることしかできなかった。 「おばさんはナナシにすっごい執着してた。おじさんがよその女と逃げちゃったからかな。頭おかしくなって入院してからも、ナナシにはほんとに、過剰に。だからあたしが仲良くするのも嫌だったみたい。」 気持ち悪いよね、と笑った。僕はそんなナナシの過去は初めて聞いたし、そんなふうに笑うアキヤマさんも知らなかった。 でもアキヤマさんの話は終わらず、僕にとって最も衝撃的な一言を発した。 「・・・屋上にはナナシがいた。この、あたしが立ってる位置に。」
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