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僕もアキヤマさんも黙って聞いていた。
「だからね、もっかい生き返れば、いいなあって。今度は優しい母さんかもしれないじゃん?
だから、頑張ったよ?俺。頑張って頑張って頑張って頑張って頑張って」
不意に、笑顔が泣きそうな顔に歪んだ。初めて見る表情だった。
「成功、したと、思ったんだ。」
そう言うとナナシは、斧を壁に叩き付けた。斧は深々と壁に突き刺さった。
「なのにさあ、母さん、俺のこと殺そうとするんだ。俺あんなに頑張ったのに。だからもっかい殺したんだ。
でも、何回でも生き返って、俺のこと殺そうとするんだ」
ナナシは泣いていた。子どもみたいだ、と思った。そんなこと考えてる場合じゃないし、実際子どもなんだから不思議なことじゃないのに。
それはすごく不思議だった。
「だから、ハル、いっしょに死んでよ。」
そんなことを考えていたとき、ナナシが言った。言ってる意味がわからなかった。
「…は?」
「友達でしょう、俺ら。母さんに殺される前に、いっしょに死んでよ。」
ナナシは僕に言った。ナナシの表情はいつものヘラヘラ笑いに変わっていた。後ろから煙がどんどんやってくるのも見えた。
僕は発作的にアキヤマさんに逃げて!!と叫んでいた。
「僕は大丈夫だから!!火がまわっちゃう!!!誰か呼んできて!!」
迷っていたが、アキヤマさんは頷いて走って行った。僕は、ナナシをなんとかしようと思った。
「な、何言ってんのナナシ、お母さんなんていないよ。死んじゃったんでしょ。大丈夫だよ、きっと疲れてて…」
必死に言葉を並べてナナシを説得しようとした。しかし、ナナシの後ろから迫るものを見て二の句が継げなくなった。
「ひっ…」
さっき病院で見たものと全く同じものが、ナナシの後ろにいた。なんで?さっき消えたはずなのに、と考えていたとき、ナナシが言った。
「ね?逃げられないんだ、もう」
そしてナナシは、僕の首に手を掛けた。ゆっくりと力を加えられて、煙のせいか僕は抵抗もできなかった。
「怖いの、もう嫌なんだよ。いっしょに死んでよ。お願いだからっ…」
ナナシが泣き笑いの表情を浮かべていた。ゆっくり目が霞んだ。なんだか、死んでやらなくてはいけない気がした。
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