屋上にはナナシがいた

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そして、目が覚めたとき、ありがちな話だが僕は病院のベッドの上だった。アキヤマさんが呼んできてくれた大人たちに助けられたようだ。火事も幸いひどくならず、僕も気を失っただけで済んだ。 アキヤマさんは全容を大人に話はしなかったようで、ただの火遊びによる火事だと思われたらしく、僕は親父に目茶苦茶叱られた。 そして、大人たちの話では、僕は家の庭に寝かせられていたそうで、だから怪我もなにも無かったらしい。 「…あいつは?」 そう尋ねると、大人は顔を曇らせながら、火元の部屋で手首を切っているのが見つかったと教えてくれた。幸い命に別状は無いらしいが、しばらく入院した後に隣りの市に住む親戚に引き取られると聞いた。 「火事を起こしてしまったから、責任感じて発作的に自殺しようとしたんだ」 と言われていたが、それは違う。ナナシは最初から死ぬつもりだった。僕を巻込んで。 そう思うと、許せない、という気持ちが沸いてきた。殺されそうになったこともそうだが、結局最後はひとりで死のうとしたことが許せなかったのだと、今は思う。 親友だと思っていたのに、いろいろな意味で裏切られた。それが許せなかったんだと思う。 結局僕はその後ナナシと一度も逢うことはなかった。一度も逢うことのないまま、あいつは死んだ。理由はよく知らないが、自殺ではなく事故死だったそうだ。 あれから数年がたち、アキヤマさんは去年めでたく結婚し、僕は少し寂しい思いをしたりした。そんな中で思う。 あの頃、ナナシがしようとしていたことを止めていられたなら、ナナシが怯えていたことに気付いていたなら、ナナシは今頃こんな冷たい石の下にいることなんか無かったのかもしれないと。 ただ、それは全部後の祭りでしかない。 どうすることもできない。
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