第2章 彼の双眸がオレを捕らえたなら

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空は灰色の雲が覆っている。 校庭の隅にあるイチョウの木。 風に揺れていたイチョウの葉はすべて落ちていた。 校舎からは吹奏楽部の楽器の音色が聞こえてくる。 オレは校舎の1階の隅にある教室へと視線を向ける。 肌寒いにもかかわらず窓が開いていたその教室の窓は、閉まっており、電気もついていないかった。 「…はぁ……」 ため息をつけば白い息。 冬になり、いつもキャンパスに絵を描いている一個上の先輩の姿は見なくなった。 運動部なら二学期が始まる前に、文化部なら二学期の半ばには引退する。 綺麗な黒髪を揺らし、いつもあんなに真剣になって何かを描いていた先輩。 オレが声をかけれることはなかったし、先輩がこちらを向くこともなかった。 そして、先輩は引退してしまった。 .
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