記憶

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地獄のような春休みと、壮絶なゴールデンウィークの後、僕は羽川に告白された。 「ごめん。どうも疲れているみたいだ」  うん。吸血鬼モドキになってから気が付かなかったけど、羽川が僕に「私と付き合ってください」なんて言うはずが無い。あの羽川だぞ。完全無欠の委員長だぞ。あ、そうか委員会の仕事に付き合ってくれということか。なーんだ、僕の更生プログラムの一環か。 「悪い! 羽川! 」 「そっか、ううん。ごめんね。私じゃ、やっぱり駄目だね」 「なんか、勘違いをした。すまん。で、今日の仕事は何だ? 」 「文化祭の決定事項の確認だけど。何を勘違いしたの? 」 「付き合ってくださいが交際の申し込みに聞こえた」  羽川の大きくて柔らかくて弾力に溢れる胸に誓ってそれはないと断言できる。いや、我が家の家宝となった羽川の下着に誓ってそれはあり得ない。羽川の善意は異常ともレベルに達しており、それは誰に対してもあまりに平等で、深すぎるから。 「うん? 私は男女交際をお願いしたつもりだよ」  だから、こんな幻聴が聞こえるはずが無い。たぶん、忍野あたりの悪戯だろう。もしかしたら、新手の怪異かあの「猫」がまだ残っているのかもしれない。 「羽川らしくない冗談だな」 「私は本気だよ」 「委員会の仕事だよな? 」 「……私ってそんなに魅力ないかな」  悲しそうに揺れている瞳。でも、僕は羽川の気持を肯定していいのだろうか。僕が羽川を尊敬していて、好きで、特別な感情を抱いているのは事実だ。でも、それはあの吸血鬼事件の時に羽川が僕を救ってくれたから生まれた感情で。それが恋愛感情なのか、僕にはわからない。僕は人に本気で恋をしたことがない。女性に性的な欲求を感じても。本当の意味での恋愛を知らない。 「理由を聞いてもいいかな? 」 「私の家のことは知ってると思う」  数日前に嫌というほど知った。そして、暴走した羽川は両親と無関係な人数名を病院送りにした。 「日記」  分厚い日記帳。そこには羽川の日々の行動が書かれていた。頭痛に悩まされ、記憶があいまいなゴールデンウィークのことも。そこには「にゃん」という語尾付きで汚く。あのブラック羽川の行動が記されていた。 「私ね、思い出したんだ」  僕の口の中はカラカラだった。羽川にだけは知って欲しくなかった。  最悪の展開だ。
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