記憶

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ブラック羽川は深層意識。隠れた願望。抑圧された思いの象徴。だから、羽川の記憶には残らないはずだった。そのはずなのに。 「阿良々木君に怪我をさせたのは私なんだね」 「違う! あの猫だ! 」  違う。違うんだ。羽川の責任じゃない。アイツは僕が自分の意志で戦った相手だ。僕が忍野制止を振り切って戦った。僕の自業自得だ。 「あの子は私だよ。本当の私」 「羽川の語尾に「にゃん」は無い! 可愛いけど! 大好きだけど! 」 そこは譲れない。素の羽川があの口調で話してくれたらと思うと。あのボケ猫め。耳とシッポだけ残してから消えればよかったのに。 「…に、にゃん」 「かーわーいーいー! 」  思わず絶叫してしまった。恥じらいながら口にする羽川が可愛らし過ぎる。ヤバい。抱きしめたい。ナデナデしたい。揉みたい。お持ち帰りしたい。抱き枕にしたい。。 「え、えーと、阿良々木君続けていいかな? 」 「え、あ、うん」 「日記を見て、全部じゃないけど、断片的に思い出したんだ。あの時のこと」  僕と闘った時のことか。それとも両親を襲った時のことか。関係のない人を巻き込んだ時か。どれだろう。聞くに聞けない。 「阿良々木君に助けてもらった」 「羽川が勝手に助かっただけだろ? 」  忍野ならそう言うだろう。仮にあの吸血鬼の搾りかすが怒り狂って日本刀を振り回した結果だとしても。それは羽川が招いたことなのだから。 「私を助けてくれたのは阿良々木君だよ」 「違う」  僕はただ流されていただけ。最悪のタイミングで現われて。羽川が隠したかった過去を暴いて、踏みにじったんだ。助けた。それは羽川が僕に春休みに手を差し伸べてくれたような行為を言うんだ。 「思うのは私の自由だよ」 「…そうだけどさ」  もし、これで春休みの分の恩が100分の1でも返したのなら満足だ。あの時、羽川がいなかったら、僕は耐えられなかった。たぶん、狂って。死んでいた。正しい答えに気がつくことのないまま。 「僕は羽川にあの件で罪悪感を感じてほしくない」  それは嘘の無い本音だった。羽川でなくともあのような孤独に耐えられるはずが無い。それでも自分を責めてしまうのが羽川なのだろう。その異常なまでの自己犠牲を忍野が怖いといった理由が改めて身に染みた。 「だから、別に無理に告白なんてしなくていいんだ」  羽川は泣いているようにしか、見えなかった。
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