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不死身モドキを愛せますか?
「うん。私はどうなっても阿良々木君と一緒に居たいよ」
「仮に僕がいつか血に飢えたとしたら?」
「私を食べてほしいな。そしたら、阿良々木君とずっといられるから」
食べるなら私だけにしてね。女の人は絶対に駄目だよと羽川は付け加えた。だから、僕は口を大きく広げてみた。まだ、あの日の名残りを残す犬歯。それを見せつけながら羽川に近づいた。
一歩
二歩
三歩
四歩
密着
羽川は動かない。優しい幸せそうな目つきで僕を眺めている。そのまま牙を喉に押し当てた。あと少し顎に力を入れれば羽川の皮膚を喰い破り、そこから生命の証が流れ出すだろう。
「吸血って性行為と同じ意味なんだよ」
その話は前に聞いた。それだと僕の初体験の相手はキスショットということになる。なんか微妙だ。美人だけど。なんか寂しい。あの時、僕にそんな余裕が無かったからだろうか。じゃあ、これが僕の正真正銘の初体験ということか。
「えへへ、嬉しいな」
「なんで? 」
「大好きな人の唇が喉に当たってるから」
ああ、ちくしょう。僕にシリアスなんて無理だ。負けた。可愛過ぎる。無理だ。パーフェクト委員長に勝てるはずが無い。もう限界だ。理性が。
「羽川」
「うん」
「僕も恋愛とか初めてだから」
ああ、自分のチキンな心が嫌になるもう少し気の利いたセリフを言えないものだろうか。僕も好きですとか、ありがとうとか、いきなり押し倒すとか、胸を揉むとか、眼球を舐めるとか。
「うん、知ってるよ」
抱きしめ返された。思ったよりも小さかった。偉大な委員長もごく普通の女の子らしい。暖かくて、柔らかくて、甘いにおいがした。
「え、えーと」
結局言葉が見つからないまま。僕は羽川の感触を堪能し続けた。終始、羽川は嬉しそうだった。こんな幸せなことはないとそう言いたげな穏やかな表情。目を細め気持ちよさそうに僕の胸に顔を埋めている。
「綺麗だなぁ」
たぶん、僕が恋愛対象として初めて異性を意識した瞬間で、それが言葉にできないほど衝動的な感情で、肉欲とはまた違う感覚で、これからも味わいたくて。
「よろしくお願いします」
自分の誤謬の無さに憂鬱になりそうになりながらも、羽川の耳元でそう呟いた。
返事は二回目のファーストキスだった。
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