2日目

2/9
前へ
/21ページ
次へ
「……ひとくん、……さひとくん」  ひどく懐かしい声がする。どこで聞いたのだろうか。  記憶を辿っても答えは出ない。  優しい少女の声にまどろみにあった俺の意識は覚醒し始める。 「……荒人くん」 「……何だよ」  寝ぼけた頭で無意識に答えていた。  そして、上体を起こしまぶたを開く。そこには昨日の夜に玄関から出てきた少女が居た。  少女は俺の反応を見ると嬉しいのか、満面の笑みを浮かべ口を開く。 「やっぱり荒人くんだったんだ」  瞳をキラキラと輝かせていたかと思えば、頬を軽く膨らませ急に不機嫌な表情へとコロッと変わる。 「昨日会った時に言ってくれれば色々と用意してあげたのに。とりあえず、おかえり荒人くん」  おかえり、と言って少女はまた嬉しそうな表情で微笑む。その姿や忙しく変わる表情は魅力的なものがあった。 「そんなにまじまじと見つめてどうしたの? 僕の顔に何か付いてる?」  少女が顔を手で拭うのを見て、俺は悪いなと思いつつも少女聞にいてみる。 「いまさらだが、誰なんだ? 俺の記憶に無いんだが」 「ぼ、僕のこと覚えてないの? 姫夏だよ。稲田 姫夏(いなだひめか)、確かに10年も会ってないけどよく遊んでたの覚えてない?」  ああ、覚えがないと俺は頷いた。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加