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「……ひとくん、……さひとくん」
ひどく懐かしい声がする。どこで聞いたのだろうか。
記憶を辿っても答えは出ない。
優しい少女の声にまどろみにあった俺の意識は覚醒し始める。
「……荒人くん」
「……何だよ」
寝ぼけた頭で無意識に答えていた。
そして、上体を起こしまぶたを開く。そこには昨日の夜に玄関から出てきた少女が居た。
少女は俺の反応を見ると嬉しいのか、満面の笑みを浮かべ口を開く。
「やっぱり荒人くんだったんだ」
瞳をキラキラと輝かせていたかと思えば、頬を軽く膨らませ急に不機嫌な表情へとコロッと変わる。
「昨日会った時に言ってくれれば色々と用意してあげたのに。とりあえず、おかえり荒人くん」
おかえり、と言って少女はまた嬉しそうな表情で微笑む。その姿や忙しく変わる表情は魅力的なものがあった。
「そんなにまじまじと見つめてどうしたの? 僕の顔に何か付いてる?」
少女が顔を手で拭うのを見て、俺は悪いなと思いつつも少女聞にいてみる。
「いまさらだが、誰なんだ? 俺の記憶に無いんだが」
「ぼ、僕のこと覚えてないの? 姫夏だよ。稲田 姫夏(いなだひめか)、確かに10年も会ってないけどよく遊んでたの覚えてない?」
ああ、覚えがないと俺は頷いた。
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