6人が本棚に入れています
本棚に追加
俺の言葉に相当なショックを受けたのか姫夏という少女は俯いて黙ってしまった。
言い方が悪かったのだろうか。記憶にないというよりは、記憶が欠損していると言った方が正しいか。
「すまん、言い方が悪かった。俺は10年前の記憶を全て失っている。だから、奥羽に住んでいたことも分からない」
頭を下げて謝ると、姫夏は上目遣いで尋ねてくる。
「本当に記憶がないの?」
「そうだと言っている」
ぶっきらぼうに答える。意識してやってるわけではないのだが、この姫夏という少女にはそう答えてしまう。
「……そうなんだ。うーん、ちょっとショックだよ」
姫夏は顔を上げて、微笑む。
「でも、荒人くんは荒人くんだよ。そこは変わってないから良いかな」
「何だ、それは」
「それ、それだよ」
俺を指差して言う。俺の顔に何か付いているのだろうか。とりあえず俺は手で顔を拭う。
「いや、よだれを垂らした後じゃなくて、ぶっきらぼうな感じだよ。何だよ、とか、覚えがないとか。一言で済まそうとするところ」
俺の物まねをしながら姫夏は相変わらず嬉しそうな表情だ。
そんな姫夏に対して愛想なく答えてしまう。それは過去の俺が無意識にそうさせているのか。
最初のコメントを投稿しよう!