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息子の姿を甲子園で見るのを楽しみにしていた。
その俺がケガをしその夢は絶たれ。
挙げ句今度は事故で死んだ。
父さんの背中を思い浮かべ、視界がじわりとぼやける。
やべ、泣きそ……。
俺はぎゅっと歯を食い縛り、俯いた。
少女はそんな俺を黙って見つめている。
天国に来たのかと勝手に思っていたが、辺りは一点の光もない真っ暗闇。
こんなところで死後を過ごしたくはない。
「今の気持ちを一言で言うとなぁに?」
すっとぼけた質問にふざけてるのかと、俯いていた顔を上げると、少女は真っ直ぐに俺を見つめ真剣な表情をしていた。
その強い青い瞳に一瞬圧倒されるも、俺は真っ先に浮かんだ言葉を発する。
「……無念」
昔の侍か?という言葉だがこれしか浮かばない。
自分の未来も何もかも絶たれ、無念としか言いようがない。
少女は真剣な表情を崩すことなく、少し目を細め俺を見つめた。
ふいにすっと腕を伸ばすと、その小さい指を俺に向ける。
「ウエムラ・サナエ。キミ、気に入ったぁ」
「えっ?」
少女は真剣な表情を崩しへなっと微笑み、それに対し間抜けな声を発する俺。
「気に入ったから、とりあえず異世界に飛んでもらうよぉ」
「はぁ?」
この子、真剣な顔をしたと思えばアホそうな言動をしたりで全く掴めない。
「無念でしょう?生きたいんでしょう?」
少女はにこにこととんちんかんなことを言っている。
「確かに生きたいけど、それは違う。俺は家族とか友達とかと」
「うぅるさいな。わかってるよぉ」
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