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八月九日、そこまで読んで手を止めた。
『ぽち』とは、きっと犬の事だろう。その名が日記に登場してから、毎日のように書かれている。
私も彼の年頃には、犬を飼っていた。新しい家族が出来た、友人が出来たという感覚……そして新しい環境による高揚感。
毎日でも構いたくなる気持ちはよく分かる。
――しかし、一つ疑問があった。
日記からすると、『ぽち』は桐山君の父親が連れて来て、倉庫の中で飼われている事になる。
何故か父親は桐山君と『ぽち』を会わせようとしない。むしろ、存在すらしていないような口ぶりだ。それからして、桐山君は偶然『ぽち』の存在に気付いたのだろうが、父親は『ぽち』の存在をひた隠しにしようとする。
何か理由がある筈だ。
違和感が指先から上って来るのを感じながら、冷めきったコーヒーを口にして再度彼の日記に目を落とした。
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