第1章

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 車で送っていく途中、凛ちゃんのマンションの前で車を停止させた。  初めて見るが、結構、新築に近い大きなマンションだ。 「へぇ。いいマンションに住んでるんだね。彼氏と同棲しているの?」  何気なく尋ねると、凛ちゃんは真顔のまま私を見た。 「彼氏なんていませんよ。1人暮らしです」 「そうなの。凛ちゃん可愛いのに」 「可愛くありません」  と、凛ちゃんはムッとしたのか、照れているのか、わからないような顔で目を逸らす。  純粋な子だな。  素直にそう思いながら微笑んでいると、いきなり僕の携帯電話から着信音が鳴り響いた。すぐに「ちょっと、ごめん」と言って、携帯電話に出た。 「もしもし」 「おお。叶夢か」  受話器側から聞こえる相手の声に、僕は少し安堵の息を漏らした。 「ああ、兄さん」  そう。相手は僕の唯一、兄弟である兄、水野來夢(ミズノ ライム)年齢は29歳。4歳年上の兄であり、大学卒業後、コピーライターとして働いている。責任感が強く、面倒見がとてもいい。多趣味で兄弟なのに似ていないと言われることもしばしばだ。例えが難しいけど、僕がぼんやりとした頼りない童顔に対して、兄はしっかりした顔立ちで年齢より上に見られることが多い落ち着いた印象をもたれ易い。
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