第1章

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「叶夢センセー、さようならぁ」 「はい。さようならぁ」 蒸し暑い夏の8月。蝉の鳴く声を耳にしながら、園庭にある向日葵に向け、ホースで水をやっていると園児が次々と保護者と手を繋いで、元気よく保育園を後にしていく。 ほとんど、迎えに来る保護者は当然ながら、母親が多く、最近は晩婚が増えているとはいえ、多く見受けられるのは私の年齢とはそう変わらない20代後半くらいの女性が多い。とはいえ、30代でも今時、20代くらいに見られる人も多いっていうから、実際の年齢を知ったら意外とびっくりしてしまうのかもしれない。 あっ、自己紹介がまだでしたね。 僕の名前は水野叶夢(ミズノ カナメ)年齢は25歳。22歳で大学を卒業後、この保育園に勤めてからもう3年以上の月日が経つ。入った当時は右も左もわからず、保育士という仕事がここまで大変だとは思っておらず、日々悪戦苦闘し、辞めたいと思ったことも何度もあったけど、それでも今も尚、この仕事を続けているのは、やはり素直に子供が好きだからかもしれない。 そう。子供が好きだから。 本当なら今頃、僕も……そう思い、ふいに快晴の青空を見上げ、ぼんやりしてしまう。 「叶夢センセー? ねぇ、叶夢センセーてば!」 と、それに渇を入れるかのようなタイミングで、児童の女の子が僕のエプロンを引っ張り、大声を張り上げている。 「ああ。ごめん、こはるちゃん」 僕は我に返り、謝ると同時に、ごまかすような笑顔でこはるちゃんの頭を撫でる。
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