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店はランチタイム前ということもあって静かで、俺一人でも充分にホールを回れた。
(やっぱりコーヒーの匂いがするホールはいい)
コーヒー好きには堪らない匂いである。
再度、事務所にコーヒーを置こうと決意したとき、
「久しぶりね、佐京君」
懐かしい声が俺の耳を打った。
「美嶺マネージャーじゃないですか!」
「ふふ、私はもうマネージャーじゃないわよ」
声の主は半年前に寿退社した美嶺マネージャーである。
飯泉店長の話だと、確かご懐妊だとか。
結婚以来会ってなかったが、以前よりも雰囲気が柔らかくなった気がする。
「立ち話もなんですから、良かったら事務所へどうぞ」
「そんなに気を遣わなくて大丈夫よ。むしろ安定期に入ったら動いた方がいいんだから」
そう言った美嶺マネージャーの目は、卵の入ったダンボールを捕らえていた。
この大量のダンボールが目に入らないはずはなかった。
(目立つもんなぁ)
「…亜紀ね。この発注は」
ダンボールを前に美嶺マネージャーは盛大なため息をついた。
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