現場 -ゲンバ-

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 こりゃ口八丁で誤魔化すには、ちょっと興奮しすぎてるかな。ともすれば力ずくでどうにかしようって腹積もりだ。  このまま相手するのもめんどくさいし…。 「で、返事は?」 「でも先輩、残念ながら僕はまだ先輩に釣り合わないとも思うんです」 「だから」 「いつか先輩に見合う男になったらよろしく!」  言い捨てるより速く踵を返して走り出す。「ちょっと!」後ろから樋口さんが呼び止め、追いかけてくる気配もあるが、構わず走る。  マウンテンバイクに飛び乗り全力で漕ぎ出したころには、背中にはもう樋口さんの姿はなかった。  風を切って走りながら息を吐く。  これで明日の学校が面倒なものになったのは間違いない。一晩で頭を冷やしてくれると助かるのだけど。  もう一度公園に戻る気にもなれないし、今日はもう帰ろう。せつなの顔でも見て癒されたい。  ペダルを踏む足に力を込めて、屋敷に続く坂を上り始めた。
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