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鷹峰の顔は青ざめた。
(──まずいことになった。)
先ほどまでの余裕な表情が嘘のように凍りついている。
夕志が何をするのかと思えば、鷲に近づき、二人で出て行ってしまったではないか。
「ねぇ、今…‥」
「見ました?今の、」
「しかもあの人の着物、鷹峰さんと同じ刺繍よねぇ…」
「でも鷲さんと、…」
「……ねぇ、」
夕志が図った通り、二人が出て行くや否や、噂好きで観察力の鋭い叔母様方たちを筆頭に、あちらこちらで様々な憶測が飛び交い始める室内。
誰もが皆、そろそろ鷹峰の結婚の話が出るのではないかと思っていただけあって、明らかに特注の、鷹峰と揃えた着物を着ていた夕志への関心は最高潮だったのだ。
少し夕志を甘くみていた鷹峰は、してやられた形となり、苦笑いするしかない。
夕志があまりにも美しかったので、舞い上がっていた自分もいたようだ。
まさに、想像以上。
が、問題はそんなことじゃない。
噂ごときのもの、しっかり話せば済む話。
一番の問題は、我が弟・鷲。
鷹峰はたまらず立ち上がった。
夕志はきっと、鷲が女好きだからただ単に意味ありげに出て行くことを考えていただけだろうが。
(あいつは、俺と同じく──)
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