誤算

5/9
前へ
/35ページ
次へ
間に合ってくれよ──! 祈りながら、すぐ近くの御手洗いにいけば、鈴の言う通り、鍵がかかっている。 個室の扉が鍵かかっているのなら、それはつまり使用中の意味だろうが。 個室のドアではなくて、そのトイレの部屋に入るドアが閉まっているのは、明らかにおかしい。 別段封鎖する意味もないし、例えば工事などで封鎖する予定も聞いていない。 (思いっきりいくか。) 息を吸い込んで、一気に扉に蹴りをかます。 ──バリバリッ!! 嫌な音もしたが、なんとか開いた木製の扉。 その向こうには── 「‥……た、鷹峰!」 目を潤ませて、肩を剥き出しにした夕志が、向こう側の壁に押しやられた格好で、突然登場した鷹峰の名前を呟いた。 夕志のすぐそばには、こちらを見て驚いた様子の鷲。 「兄さん!?」 「『兄さん!?』じゃねぇ、 鷲、お前、俺のものに手を出して、済むとでも思ってるのか?」 「兄さんの!? いや、あの、そんなっ、…」 「まぁいい、     今回のは夕志が悪い。」 「夕志?ゆう……あっ!ユウってそっから……」 一人納得したように頷く鷲。 どうやら鷹峰には弱いらしい。 もの凄く落ち着きがない。 一方の夕志は、二人の獣に追い詰められているような絵図等に半ば、放心状態だった。 ピンクな雰囲気でワザとらしく鷲を誘い出したまではいいものの、男など襲うはずもないと思い、種明かししたら、まさかの展開。 『俺はバイだよ、男もイけるくちだからさ。ねぇ、抱かせて。』 追い詰められ、絶望に打ちひしがれているところに、鷹峰の登場。 鷹峰のお陰で助かったのはいうまでもない。 「お前、鷲がバイってことまでは知らなかったんだな、」 「……え、えぇ、」 「俺もそうだけどな、」 「……へぇ、そうなんで……って、えっ!?鷹峰も!?」 平然とカミングアウトする友に、夕志の思考はパンク状態だ。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

284人が本棚に入れています
本棚に追加