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友和が出て行ったのを確かめると、鷹峰は夕志を解放した。
すかさず、鷹峰から離れる夕志。
夕志の頭の中は、どこから鷹峰を非難しようかとフル稼働している。
息を整えながら、夕志は足元を見た。
『美人が怒ると怖い』
というのはこのことだろうか。
鷹峰が「流石に怒るか、」と呟けば、夕志は眉を吊り上げた。
もし、夕志が乱暴で荒い性格だったら、きっと鷹峰につかみかかって殴っていたことだろう。
が、立場上殴るわけにもいかないし、元々そういうタイプではない夕志は、深いため息をついてから口を開いた。
(こんなに感情が乱れるのは、
……初めてだ。)
情けないが、涙が溢れてくる。
「何故、こんなことをしたのですか?しかも、友和様まで…‥」
涙が落ちそうだ。
「夕志、」
「鷹峰は、絵月の当主で、社の社長で、私のたった一人の友人で…‥」
あぁ、畳にシミができた。
「夕志っ、」
「もう、……からかうなら、もっとマシな冗談をっ、」
そう言って顔を上げれば、鷹峰が目の前に居る。
「夕志っ!!」
頭の後ろと腰に腕を回される。
もう、抵抗する気すらない。
無数の“なぜ?”が、夕志の体中をぐるぐると回って、目から堪えきれずに溢れ流れ落ちる。
(こんなに泣いたこと、あったっけ…)
霞んだ視界は、眼鏡を外した時のようだ。
見えるけど、見えない。
鷹峰が、見えない。
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