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今年最後のニューストレインが終了し、香子はいつも以上に安堵した。
いくつになっても生放送は慣れない。ルーティーンワークではあるが、戦場では気は抜けない。始まる度に丁度良い具合に緊張の糸を張り、終わると共に大きな安心感を手に入れる。
香子はその毎日刺激を味わう生活からは抜けられなくなっていた。
そして香子はいつもの様に赤いコートに袖を通してバッグを片手にアナウンスルームを出た。
局内を颯爽と歩くと、報道とは関係の無いスタッフも口々に挨拶をしてくれる。
そうしていると、やっぱり気持ちが良い。別に成り上がったとは思わないが、今まで止まらずに頑張ってきた事を実感できる。
私には、ここしかない。私がいなくなる訳にはいかない…香子は、犯した罪を周囲の香子に対する態度から徐々に消化出来つつあった。行動を起こした事は間違いではないのだと思えた。
「すみません」
多くのスタッフとすれ違いがあった中、1人の男が香子に声をかけた。
反射的に振り返ると、そこには佐川がいた。
「ああ、あなた刑事さんね」
「警部がニューストレインのスタジオでお待ちです。来ていただけますか?」
佐川は事務的に言った。
「ええ、構いませんよ」
香子はそう言って廊下を佐川と共に引き返した。
そしてスタジオに一歩一歩と向かう中で、香子の胸の奥には再び何か悪い予感が生まれた。
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