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「どういう事?」
すると志津里は胸ポケットから三つ折りになった紙を取り出して広げた。
「これはその事件の原稿です。よく見てもらえますか?」
香子は志津里の横に並んで原稿に目を通した。
そして、香子は気付いた。
「そういうこと…」
思わず言葉がこぼれる。
「そうです、間違っていたのは原稿の方なんです。この原稿を書いたのは3年目の記者で、埼玉に取材に行って夜に戻り本番に間に合わせる為に原稿を書いた。しかし、事態は一変します。荻原だけだと思っていた犯人に共犯がいたんです。だから彼はせっかく書いた原稿を書き直す羽目になった。埼玉から情報を仕入れながら必死で新しい原稿を書いて本番直前に仕上げた。慌てた記者が名前を間違えたまま…でもギリギリだったのでチェックもおざなりになった」
「仕事に甘さが出てるわね」
香子はこの場にいない記者に腹立たしさを覚えた。
「そして、ここからが重要です。荻原の名前が公表されたのは夜になってから、つまりどの局も10時前後のニュースで初めて発表する事になる。だからあのまま原稿を読めば相沢さんと同じ様に言ったはずなんです。しかし、あなたは正しい名前で違和感無く言いました、カメラの前でね。あなたが名前を間違えずに言った事はそれこそ日本中に証言者がいると思いますよ」
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