一章 意味のないこと

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旧校舎の中は、視線を歩かせていた時に見た通り薄汚くて、昼間にも関わらず薄暗いように思える。 「もういいかい?」なんて言ったら、返事が返ってきそうな気がした。事実、人影を見たのだけれど。 僕がいたのは三階の教室、影は一つ下の二階にあった。見下ろすようにして目撃をしたわけだ。 階段を上がり、廊下の窓から新校舎を見た。二階の、二年生が教室でわいわいと昼食を取っているのが見えて、思わず伏せた。 こういう仕組みで、僕も人影を見たんじゃないか? と自嘲したくなった。人が人を呼ぶ。極、自然の流れだ。 あの時は授業中だった。正体が先生なら、僕はたちまち説教部屋へ連行されるのだろう。嫌だな。僕は何の問題のない、大人しい一生徒なのに。主観的にだけれど。 いつまでもしゃがんでいても仕方ない。告げ口でも通報でも何でもすればいい。指名手配犯の気持ちを味わいながら、僕はまた歩き始めた。
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