一章 意味のないこと

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この辺りだ。僕が見ていた範囲。しかし人影は無かった。動いたのか見間違いか、はたまたは幽霊の類いとか。信じていないけれど。 影の出どころだと思われる教室。黒板側の戸は開いていたが、後部側の戸は閉まっていた。どちらかに統一して欲しいものだ。別にA型ではないけれど。 影の見えた前方の入り口から入るのは何となく気が引けたので、後ろから入ることにした。戸を開く音が馬鹿に響くだろうが、気にしないでおこう。 「……」 妙に心臓が動く。期待とか不安とか緊張が織り混ざった、イヤな鼓動の打ち方だった。不安一色よりかはマシだけれど。 幽霊だったらどうする? どうしようもない。吹聴したって直ぐに風化しそうだ。もとより、怪談好きキャラでもない。 先生だったらどうする? どうしようもない。素直にお縄を頂戴されよう。念のため、言い訳を考えておこうか。飼い猫が迷いこんだ、とか。 生徒だったら? さて、どうなるかな。 僕は、扉を開けた。
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