一章 意味のないこと

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声のした方、黒板へと反射的に首を振る。そこには間違いなく「人」が立っていた。 その姿は予想内、しかし――想定外。 うちの制服を着た、女生徒だった。中学生かとも思えるほど、小さく幼い顔つきをしている。しかし僕でない誰かなら、一目惚れしてしまいそうだ。僕でない誰かなら。 さて、どうしたものか。僕は初対面の女の子と話すのはあまり得意ではない。シャイだから。自分で言うのもなんだけれど。 とりあえず、思っていたことをそのまま口にした。 「どこに隠れていたの?」 彼女は、にっこりと微笑んだ。それは誰かを見つけた「鬼」さんの表情。 「さて、どこでしょう?」 教卓に両肘をついて、彼女は頭を置いた。小悪魔みたいだ、そんな印象を抱いた。或いは、本当の悪魔、とかね。有り得ないのだけれど。
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