一章 意味のないこと

2/22
前へ
/235ページ
次へ
カツカツと、チョークの音が様々なリズムと強弱をもって、教室の中で響いている。 それは電車のちょっとした揺れみたいなもので、理由は分からないけれど何故か眠気を誘う。 その音に合わせて書かれるのは、また眠気を誘うには十分な数字や記号だ。 季節は、春と夏の境目。5月だった。暑くないけれど、温かいとも言い難い。何とも言えないこの「ぬくさ」が、まるで布団にくるまっているかのような錯覚に陥れる。 僕は肘をついた。 我慢の限界だった。 もっとも、その我慢というのは本当に我慢をしている人には、失礼に値するものなのだけれど。 次に目を開けた時、黒板から暗号は全て消えていた。
/235ページ

最初のコメントを投稿しよう!

92人が本棚に入れています
本棚に追加