92人が本棚に入れています
本棚に追加
算数、或いは数学という学問には10年の付き合いになる。けれども、どうにも好きにはなれない。
こんなこと勉強して、意味あるのかな。
誰しもが思い、そして軽く流されるこの疑問に、僕だけは取りつかれたままだった。
我ながら頑固だ。端から見たら、そうは見えないのだろうけれど。
意味を見い出そうとしても、年を重ねる度に「それ」は複雑になっていく。
まるで人間みたいに。
「また寝てたな、マコト」
肩に手を置かれた。
後ろの席の、ユウキだ。
4月から出席番号順のまま、席替えは行われていないものだから、もう1ヶ月はユウキの前に座っている。それで必然的に仲良くなった。表面上は。
ここで振り向いたら、僕の頬にユウキの指が突き刺さるんだろう――分かっていて振り向いた。
「くくっ、引っ掛かってやんの」
思い切り振り向き過ぎて、口内を噛んでしまった。わずかに広がる血の味に、思わず眉間にシワが寄った。
それが怒っているように見えたのか、ユウキは「そんぐらいで怒るなよー」と、和ませるように唇を突き出して言った。
「怒ってないよ」
本当は少しだけ怒っていた。自分が悪いのだけれど。
「なら良かった」
ユウキは微笑んだ。
最初のコメントを投稿しよう!