一章 意味のないこと

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算数、或いは数学という学問には10年の付き合いになる。けれども、どうにも好きにはなれない。 こんなこと勉強して、意味あるのかな。 誰しもが思い、そして軽く流されるこの疑問に、僕だけは取りつかれたままだった。 我ながら頑固だ。端から見たら、そうは見えないのだろうけれど。 意味を見い出そうとしても、年を重ねる度に「それ」は複雑になっていく。 まるで人間みたいに。 「また寝てたな、マコト」 肩に手を置かれた。 後ろの席の、ユウキだ。 4月から出席番号順のまま、席替えは行われていないものだから、もう1ヶ月はユウキの前に座っている。それで必然的に仲良くなった。表面上は。 ここで振り向いたら、僕の頬にユウキの指が突き刺さるんだろう――分かっていて振り向いた。 「くくっ、引っ掛かってやんの」 思い切り振り向き過ぎて、口内を噛んでしまった。わずかに広がる血の味に、思わず眉間にシワが寄った。 それが怒っているように見えたのか、ユウキは「そんぐらいで怒るなよー」と、和ませるように唇を突き出して言った。 「怒ってないよ」 本当は少しだけ怒っていた。自分が悪いのだけれど。 「なら良かった」 ユウキは微笑んだ。
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