一、きこりの歌

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 今は昔、きこりの、山守に斧(よき)を取られて、わびし、心憂しと思ひて、つらづゑつきてをりける。山守見て、「さるべきことを申せ。取らせん」と言ひければ、 あしきだになきはわりなき世の中によきをとられてわれいかにせむ と詠みたりければ、山守、返しせんと思ひて、「うう、うう」とうめきけれど、えせざりけり。さて、斧返し取らせてければ、うれしと思ひけりとぞ。  人はただ、歌をかまへて詠むべしとみえたり。
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