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ゆっくりと加速していく列車は、真っ白な空間を進んでいた。
勿論、レールなどないし、行き先もない。
ただ何故かガタンゴトンと定期的な揺れを出しながらも進み続ける列車。
古ぼけた列車だった。
木材でできた黒ずんだ車体とかくすんだ窓とか何もかもが古い。
しかしそれは壊れそうな印象ではなく、どこか懐かしい、古さ。
そんな列車を運転する人物は、呑気に通信機に向かって手をパタパタと振っていた。
「あー、聞いてる?管制塔さん返事くださーい!あー!」
『だぁぁあい!うるさい!出たからちゃっちゃと報告しやがれコンニャロ』
無邪気な声で苛立ちMAXな通信機の向こうに話しかける青年は、杞詠 一哉(コヨミ イチヤ)という。
淡い茶色の髪と柔らかそうなというより常にヘラヘラしているような彼は、レトロな運転手らしいグリーン系統の制服を着、この列車の走行を全て行っている。
「今、真っ白な平野走ってる」
『コードを言えコードを!』
「えーっと……コード3642通称【シロユリ】を走行中」
『よくできたなオメデトウ最後に列車のナンバーをドウゾ』
「酷い棒読みだなぁ……。20569号、運転手は杞詠でしたー」
そして定時の報告を終えた杞詠は通信を切ろうとして
『………待て、』
呼び止められた。
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