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そこは優しい、懐かしい匂いがした。とまず真は思った。
次に、ここはどこだろう、と考える。
────確か自分は電車に乗っていて、座った向かい側には誰もいなかったしそもそもこんな個室風ではない筈だ。
「……まだ夢を見てんのか俺は。」
醒めろ醒めろ、じゃないと駅を寝過ごしてしまうじゃないか。
「……真?」
優しげで、しかし凛とした声が耳に届く。
低くはないが心地好い声の主は小柄で、パタパタと真の側にやってきた。
少女は今流行りのメイド服(一部のコスプレの中での話で、別に真はそのような趣味があるわけではないが)のような、しかしこれもどこか古い印象を受ける服を着ていた。
強いて言うなら、生粋のメイドのような、何度も着古したような着慣れているような服。
それに少し肩にかかる長さの黒髪を下に二つにくくって、少し薄い色の瞳でじーーーーっと真を無垢な表情で見ていた。
「………誰だ?」
「わぁ、本当に真だ!」
「いや、質問に答えろよ」
ニッコリと(意外と無表情かと思っていたので驚きだ)嬉しそうに満面の笑みになる少女だが、すぐにそれは引っ込んで心配そうに真の顔を覗き込む。
「死んじゃったんだよ、真」
無垢な少女は慈しむかのような、哀れみを込めたような、しかしどこか淡々とした表情でそう言い放った。
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