1793人が本棚に入れています
本棚に追加
その後、みんなはそれぞれ家族旅行など毎年と同じように過ごしていた。
しかし葵は、あまり外に出ようとせずに部屋にこもりがちになり、食事も精神面と夏バテが重なったのか食べる量が減っていき、時々病院へ行き点滴をうっていた。
葵の母親は、仕事が忙しい中葵の事を凄く気にかけていたが、
『ただの夏バテだよ。心配しないで。』
と言うだけで何も話さなかった。
そんな時、隣に住む智彦がお菓子を持って遊びに来た。
『葵~、入るぞ~?』
『智君!?どうしたの?』
突然の来客に驚く葵。
だが、もっと驚いたのは智彦の方だった。
以前より痩せていて、顔色もあまり良くない葵を見て心配する。
『どうしたんだ、葵!どっか具合でも悪いのか!?』
テーブルに置いてある薬を目にして、余計心配する。
そんな智彦に苦笑いする葵。
『大丈夫だよ。夏バテがちょっと酷いだけだから。』
『夏バテって…。』
『大丈夫だってば~。心配しすぎだよ、智君は。』
葵は、笑いながらテーブルの上にあった雑誌や薬を片付けると、お茶を持ちに部屋を出た。
その隙に薬の説明が書かれている紙を見つけ、その内容に驚く。
『夏バテだけで、こんなに処方されんのか?』
智彦は、すぐに何かあったと感づいた。
お茶を持って来た葵は、智彦が持ってきたゼリーを貰い食べ始める。
『冷たくて美味しね~。…食べないの?』
ゼリーに手を付けず、少し険しい顔で葵を見る。
『どうしたの?そんな怖い顔して。』
首を傾げる葵に、ゆっくりと話す。
『なぁ、…本当は何かあっただろ?』
『また言ってる~。だから、夏バテだって言ってるじゃん。』
『じゃあ、何で夏バテだけで精神安定剤とか飲んでんだよ?』
『え?…なんでそれ。』
『さっき、これ見つけて読んだ。…おかしいだろう、夏バテだけなのにそんなのまで飲んでるなんて。』
智彦はテーブルに、みつけた紙を置く。葵はスプーンを離し、下を向いた。
『なぁ、何があったんだ?』
智彦は葵の近くに寄る。
『何かあったら言えって言っただろ?』
その瞬間、葵の瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちた。
『葵…?』
智彦は優しく頭を撫でて、包み込む。
別に好きだからとかではなく、智彦にとって葵は妹のような家族の存在であったから。
葵は今まで張り詰めていた糸が切れ、溜め込んでいたものが流れるように出てきた。
最初のコメントを投稿しよう!