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『お嬢様、お疲れでしょう?ハーブティです。』
『ありがとう。』
口に含むとミントの香りが広がり、気分を落ち着かせてくれる。
『鈴木さん、私の部屋そのまま?』
『はい。変わってませんよ。』
『じゃあ浴衣もそのままかしら。今年、友達とお祭りに行くのに浴衣で行くことになったの。』
笑顔で言いながら自分の部屋を目指す。
入ると引越したときのままで、物はほとんどなくがらんとしているが、懐かしい感じだった。
クローゼットの中にある着物用の引き出しを開けて確認する。
『うーん…何色にしよう。やっぱり紺?この淡い紫もいいんだけどなぁ~。』
必死に悩むのを見ていた鈴木は微笑む。
『ねぇ、鈴木さん。どれがいいかしら?』
『私は淡い紫がいいように思えますが…。お出かけは日中ですか?』
『うん。』
『でしたら紫でいいと思いますよ?でも両方持って行かれて当日決めても宜しいかと思います。』
『そうね。ありがとう、鈴木さん。』
2人は楽しそうに話す。
すると突然チャイムがなり、他の家政婦がでる。
『葵様、お客様です。』
『え?』
『お隣の桐生様です。』
葵は小走りで客間へ向かい、ドアを開けると智彦がハーブティを飲んでいた。
『智君!どうしたの?』
『葵が見えたから。来てみた。』
葵は智彦の向かいに座る。
『今日はデートじゃないの?』
『今日は彼女が予定悪くてな。葵、今夜暇か?久々に飯一緒に食べないか?』
『賛成~!あ、でも荷物あるんだった。』
『帰り送ってくよ。』
葵はすごく嬉しくなり、笑顔でお礼を言う。
『ありがとう!!』
幼なじみとご飯を一緒に食べるなんて何年ぶりだろうか。
中学に入りしばらくして2人は忙しくなり遊ぶこともなくなった。
そんな2人を見て嬉しそうに微笑む鈴木。
昔と変わらない葵を見て
とても嬉しかったのだ。変わったと言えば、かなり大人っぽくなったこと。
それだけでも大きくなったと思う鈴木の目は、孫を見ているかのようだった。
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