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その時…
『きゃ!!』
『危ねぇ!』
支えにしていた左手が滑り陽介のベランダへ転がりこんだ。
『…ーたぁ。先生大丈夫!?』
『……まったくお前は。』
陽介の姿が見えずキョロキョロする。
『下だ、下!』
『へ?』
下を見ると陽介がビールをかぶって寝ていた。
そのお腹の上に葵は乗っていたのだ。
慌てて立ち上がり手をだす。
陽介はその手をとって立つ。
『先生…大丈夫?』
心配そうな顔の葵を見ると陽介はドキッとして少し固まる。
『先生?やっぱりどっか怪我した!?』
あわあわする葵に苦笑いして頭を撫でる。
『大丈夫だ。西崎は怪我ないか?』
『うん。少しすりむいたけど平気。』
『どれ…あ~ぁ。ちょっとこい。』
腕をみた陽介は葵の腕を引っ張り家の中に連れていき、消毒を始める。
『ごめんなさい。』
『ホントだよ。』
葵は申し訳なくて下を向いたままになる。
しばらく会話はなくなり治療する音だけが静かな部屋に響く。
治療が終わっても下を向いたままだ。
そんな葵を見て自然と体が動く。
え…?
陽介は葵を抱きしめていた。
葵は突然の事で理解できず固まったまま。
『冗談だよ。俺も悪ふざけが過ぎたな。…ごめん。』
先生…何してるの?
声も出せなかった。
凄くびっくりしているのにも関わらず、陽介の鼓動を聞いて安心している自分がいた。
そしてようやく出た言葉が
『先生…ビール臭い。』
だった。
陽介は慌てて葵から離れる。
『あ、ごめんごめん。ちょっとシャワー浴びてくるから。どうする?部屋に戻るか?』
『うーん…いや、後でベランダから戻るよ。』
『そっか。じゃあちょっと待っててな。テレビ見てていいから……あ~マジ臭い。』
陽介はそういうと風呂に向う。
葵がここに残ったのはベランダに散らかったビールを片付けるためだった。
びっくりしたー!なんだったのさっきの。なんで私こんなにドキドキしてるの?
動かしていた手を止めてため息をつく。
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