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その時、春菜の一言が浮かぶ。
『あなた達、まさかできてるんじゃないでしょうね?』
途端に顔が火照っていくのがわかった。
『違う違う!!』
『何が違うんだ?』
振り返ると上半身裸で頭をバスタオルで拭きながら近づいてくる陽介がいた。
葵はとっさに顔を背ける。
『い、ぃや!なんでもないですよ!!』
声が裏返えってしまい口を手で押さえる。
しかし陽介は気づいていなかった。
『あ~、いいのに。汚れただろ?』
葵のしていたことに気付き手を洗ってこいと言ってくれた。
『浴衣大丈夫か?』
『はい。別に汚れてもいいものですし…。』
未だに動揺していて敬語になっていた。
『戸惑うような事して悪かったな。さっきのは忘れてくれ。』
苦笑いしながらタバコに火を付ける。
『とりあえず、私そろそろ戻りますね?』
『おぅ。…って、戻れるか?』
『イス使えばなんとか行けます。消毒とかありがとうございました。』
陽介の目を見ることなく会釈をすると、器用に椅子を使って自分の部屋のベランダへ戻りテーブルにある物をさげようとした。
『あ、それ食べる。』
『え…食べるんですか?結構このままの状態だったのに?』
『うん。』
笑っている陽介に焼きそばとたこ焼きを渡す。
『ありがとな。掃除も。』
『いえ…。』
陽介の笑顔を見ているとますますドキドキしてきた。
『じゃあ、おやすみなさい。』
『あぁ、おやすみ。』
2人は部屋に入る。
葵は鍵とカーテンを閉めるとその場に座りこんだ。
なんでこんなにドキドキするの…?
火照った顔を触る。
陽介はキッチンへ行き食べ物を温める。
………。
この日の夜はとても静かで長かった。
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