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夕方になり、暗くなる空にはオレンジ色がまだ残っていた。
授業が始まるまで1週間を切り書類の整理などをしていた陽介は、一息付けるためにベランダへでてタバコを吸う。
8月末になると少し風は冷たく感じた。
ぼーっと景色を眺めている時、夕べの事が脳裏に浮かび頭をかく。
陽介は葵とベランダで過ごす時間がとても楽しくて、ずっと一緒にいたいと思ったのだ。
いけない事なのはわかってはいたが、どうしても自分を押さえることができずに抱きしめてしまった。
気まずくなるのはわかっていたのに…。
『…もう、ここで話すことも無くなるのかもなぁ。』
そう呟いて葵の部屋を見る。
ベランダの窓は開いていて、カーテンが出たり入ったりしていた。
…窓開いてて、この時間部屋暗いままって寝てるのか?
陽介の読み通り、ソファーで爆睡している葵。
まぁ、風邪ひかなきゃいいけど。
タバコの煙を吐き出し火を消して中に入る。
『さて、買い物でも行くかぁ…。』
空っぽの冷蔵庫を見て自分がよく生きているものだと思う。
『ここんとこ西崎が作ったのばっか食べてたからなぁ…。ダメじゃん!俺!』
生徒に頼る自分が情けなくなりため息をつく。
『たまには作ってやるかなぁ~。』
陽介は食材を選ぶ。
1時間して部屋に戻り夕食を作る。
こうみえても料理の腕はいい方だった。
『さて、できた。』
満足げにベランダへでて葵の部屋を見るが、買い物に行く前と同じ状態だった。
心配になった陽介は、教えてもらった携帯に電話する。
しかし、着信音は聞こえてくるものの出ることはなかった。
まさか、なんかあったんじゃ!?
陽介は隣のベランダへ移動し、そっとカーテンを開けるとソファーで眠る葵がいた。
月明かりが差し込んで葵の顔が見える。
その顔はまるで人形のように白く綺麗で思わず見とれていたが、首を横にふり葵を起こす。
『おい、西崎…西崎。』
葵がうっすらと目を開けて陽介をぼーっと見る。
『なんだ…先生か。』
そう呟き猫のように思いっきり伸びる…が、その体が止まる。
『なんで先生ここにいるの!?』
声を大きくして言った。それを確認して安堵のため息をつく。
『夕方、部屋見た時のまんまだったからなんかあったと思ってきたんだよ。』
『…え?今何時!?』
葵はこの時、ようやく部屋が暗いことに気付き電気を付ける。
眩しく目を擦りながら時計を見て固まる。
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