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『先生…。』
『無理なのはわかってる。でも、考えてくれないか?』
『そんな…。』
下を向く。
『花火大会…その日の夜。返事待ってるから。』
そう言うと部屋に入ってしまう陽介。
『あ!先生!!』
その場にたちつくす葵には、月明かりがスポットライトのようにあたっていた。
そして、花火大会当日。
葵はそれまで勉強、読書、テレビ…色んなことをしても集中できず、ずっと考えていた。
考えれば考える度に、胸が苦しくなった。
夜になり、今夜も月明かりが眩しいぐらい綺麗に晴れていて絶好の花火日和。
ベランダに出て椅子に座り陽介を待つ。
葵の気持ちは決まっていた。
花火が始まってすぐに、ベランダに出てきた陽介。
どうやら風呂に入っていたらしく髪が濡れていた。
『悪い、風呂入ってた。…今日暑かったよな~。』
『うん、かなりね。』
どことなくぎこちない2人は、黙って花火を見ていた。
今回は場所が少し遠いが、十分綺麗に見える。
花火の音が響く中、口を開いたのは葵だった。
『あれからずっと考えてたの。…先生とは一線を越えちゃいけない関係なんだって。でも…』
ドン!!…ドンドンッ!!
大きな音が葵の言葉を飲み込む。
『悪い、よく聞こえない。』
花火は切れそうにないため、葵は少し声を大きくして言う。
『でも!私も先生とは、一緒にいたいと思ったの!!』
鮮やかな花火は一旦止まった。
『毎日ここで、こうやって話してるのが凄く楽しくて。』
陽介は下を向いている葵を見たまま黙っている。
『…私、』
あと一歩のところで、またしても邪魔に入る花火に、葵は苦笑いして立ち上がり陽介に手招きする。
陽介は葵の方に顔を近づけると、
『私も先生のことが大好きだよ。』
そう耳元で言われた。
陽介は葵を見ると恥ずかしそうに下を向いている。
フラレると思っていたが、思いもよらない返事がきて嬉しくなり抱きしめる。
『ちょっと!先生!?』
身動きが取れないほどきつく抱きしめる。
しばらくして腕の力を緩めるがそのままの状態で話しだす。
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