別れ

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その瞬間、葵はドキッとした。 好きな言葉を言われたわけでも、好きな人が前にいるわけでもないのに。 …? 『じゃあまたな。』 『はい。失礼します。』 またしても葵は丁寧に挨拶をし部屋に戻った。 部屋に入りため息をつく。 『…明日行きたくないな~。』 気晴らしにベランダへでるが、ため息がでる。 『どうした?』 左を見ると今別れたばかりの陽介がいた。 隣とのベランダの境がここだけは低いかったのだ。 設計ミス…らしい。 『……びっくりした~。』 葵は目を丸くしていた。 『何もそんなにびっくりすることないだろ~。俺ショックだなぁ…。』 そう言ってヘコむ。 どんよりした空気に焦る葵は、必死に弁解する。 『いや、ぼけっとしてたんで…隣にいるの見えなくて!!』 そんな葵に優しく微笑む。 『冗談だよ。』 葵も思わず苦笑いをしながらほっとする。 『その様子なら明日は大丈夫だな。』 『え?』 『学校、行けそうだなって。あー、今日やったプリント渡しとくよ。』 陽介は部屋に戻りプリントを5枚渡す。 『え?こんなに…。』 いつもの倍の量に驚く。 陽介はタバコに火をつけ、笑いながら煙を吐き出す。 『いつも通り。』 『皆からブーイング、すごかったんじゃ~…。』 『うん。すごかったよ、ラブコール。』 この人は…。絶対めんどくさかったんだろーなぁ、授業。 『めんどくさい。』 『なに~?ちゃんとやれよ?明日指すからな。』 身を乗り出しプリントにタバコをもちながら指す。 『あー!!プリント燃える!!』 急いでプリントをよけ、陽介の事を睨みつける。 『そう睨むなよ。』 『普通タバコ持ちながらやらないですよ?』 そう言うと陽介の手からタバコを取り吸う。 その光景にポカンとする陽介。 『え…西崎…?』 『まったく、しかもご丁寧に練習問題ばっかり。…あ、これ、ご内密に宜しくお願いしますね。学校では禁煙家の東谷先生?』 そのままタバコを持ち、手を振って部屋に入る。 時間が止まったままの陽介はしばらくベランダにいた。
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