大切なモノ 前編

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僕は今、奇妙に薄暗くなり始めた本館の廊下でたっている。 なぜかというとコール・ファイファー先生に呼ばれたからである。 あの事件のあと夜になると三階に幽霊が出るという噂はすっかりとなくなった。 それどころかコール・ファイファー先生は館長などにあの三階をもう一度使うことを提案したらしい。 朝食に遅れた生徒はコール・ファイファーに罰と称されその手伝いに駆り出されるのであった。 そして僕がここにきてからもうすぐ一週間がたとうとしていた。 だけど僕にはもっとここにいるという感覚がしてたまらなかった。 あの後アリスとエレナはご飯を食べる時にメリッサやハナたちととるようになった。ようするに僕たちのところに来るようになった、そして二人もその場にすぐ馴染んでいった。 足りなくなった席を僕たちはテーブルを移動させ補っていた。 バンドとしての練習もはじめていた。 みんなのことをもっと知ることができた。 心の穴も少しずつ生まれかけていた、それと同時に僕は怖くなっていた。 本当の家族を忘れてしまうんじゃないかとか、 そんなことばかりが僕の頭の中をめぐってもう少しでおかしくなりそうになったときもあった。 チクタクチクタク 普段気にならない時計の針が動く音がやけに気になってイライラした。 「まぁあ、入ってくれぇえ」
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