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「別にいっか。捨ててあるんだし、貰える物は貰っておこう」
素朴な疑問は飲み込み、消化する。
それに、正直に言えばちょうど新しい冷蔵庫が欲しかったんだ。今の冷蔵庫は教授から貰ったちょっと小さい物で、何かと不便だったんだよ。氷は作れないし2Lペットボトルが5本入ったら満タンになっちゃう位小さいし、何より稼働音が大きいから眠りにくい!
「そうと決まれば雨が降っちゃう前にさっさと荷造り開始だ!」
ズボンのポッケから軍手を取り出し、リュックからはゴミ袋とロープを出して作業に取りかかる。そしてあっという間に、僕の目の前には簡易梱包された冷蔵庫があった。
そのまま、簡易梱包した冷蔵庫を二宮金次郎よろしくとしっかり背負い込む。リュックも中に入れたからか、やっぱりちょっと重たい。けど、運び慣れた僕の相手ではない! ふははははは!!
「……てっ、ヤバい! 降ってきた! 急いで帰らないと!!」
顔に落ちてきた水滴に気づき、大慌てで帰路を走り出す。走っている間、背負った冷蔵庫からはなぜか重さを感じなかった。きっと夢中で走っていたからだろう。
その時の僕は、まだそんな風に考えていた。
「ただいまー」
誰も居ない空間に帰宅を告げ、今日の成果──冷蔵庫を玄関におろす。
ここは僕が住んでいるアパート。その名も【メゾン一刻】。
……あえて何も言うまい。
こんなふざけた名前でもお風呂・トイレ完備、部屋数は居間と台所+αの合計3部屋。なのに家賃が2万ピッタリっていう破格の値段。ニトリも真っ青だ。……まぁ、それなりに理由があるんだけど、それは置いておこうか。
「修理に取りかか……る前に許可を貰いに行かないと」
再び外に出て建物の裏側へと移動。するとボロボロだった外装が真新しい近代的……というか月にある異空間で地球とつながっている建物のように様変わりする。昭和世代から一気に平成世代へ!
実はここ、アパートの裏側に大家さんの趣味で発明室という名の作業場があるんだよね。家賃が安い理由もこれが理由なのだけど、もうひとつの問題があってね。
大家さんが僕も通っている大学の……まぁ、一応先輩か。その人がアパートの後ろに色々作って毎日昼夜問わず鉄を削ったり爆発が起きたりするから、文句を言わない人だけが住める仕様なんだ。
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