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「ごちそうさまでしたー」
両手を合わせ、食事終了の儀式。このお弁当を作ってくれた人、料理の為に殺された生き物達の命、そして何より──お弁当に半額シールを貼ってくれた店員さんに感謝を。この世に【半額】という甘美で素敵な響きを持つシールがなければ、僕はそこら辺で野垂れ死んでいたに違いない。
だってこの『熊もビックリ! 激ウマ焼き鮭弁当』が340円になるんだよ!? 脂の乗った鮭の切り身が丸々一切れこんがりジューシーに焼かれ、白いご飯に漬け物、そしてポテトサラダまで入った圧倒的ボリュームで340円!! これを買わずして何を買うと言うのさ!?
……何言ってるんだ、僕。
これはきっと、久々に重たい物を運んだから疲れてるんだ。きっとそうに違いない、うん。今日は早めに寝よう。
食べた物を片付け、洗面所で歯を磨く。食後十分は歯を磨いたらいけないらしいけど、そんなこと知ったことじゃあない。若いから大丈夫だよ、きっと。
ふわぁ、とアクビをひとつ。押し入れから布団一式を取り出して手早く寝る支度を済ます。こういう時だけ、万年床の友達が羨ましく感じるよ。
明かりを消し、布団にもぞもぞと入り込んでゆっくりと目を瞑る。
すると、何故だか上京したての頃が思い浮かんでくる。
上京初日は見る人全員が僕の荷物を狙ってるみたいでビクビクしてたし、何より不良っぽい人が普通に居るのが怖かった。カツアゲされるんじゃないかと生きた心地がしなかったのも覚えている。
それから大学に入ってから龍也君に出会って、友達もちょっとずつ増えて……まぁ、女の子とは全然喋ってないけど。
もちろん僕だって健全な男子だし、女の子と仲良くなって……その……恋人になってキスとかもしてみたいけどさ。喋ろうとしても照れて顔が真っ赤になっちゃうし、せっかく喋りかけられてもテンパっちゃうんだよね。
…………ダメだなぁ、僕。
軽く自己嫌悪に陥りながらも、体は正直なもので、不意に眠気が強くなってきた。頭の中を揺りかごで揺らされているような感覚の中、僕は頭の中に浮かび上がってきた願望を呟く。
「可愛い女の子と付き合いたいなぁ……」
その直後、遠くに聴こえていたはずの雷鳴が耳元で聴こえたような気がした。しかし僕は眠気が覚めるどころか、そのまま安らかに深い眠りへと落ちた。
【家電娘は拾った主人と結ばれるのか?】
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