Name 君の名は

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Name 君の名は

 はぁ……。  駅のホームで、玄米茶を飲みながら溜め息をつく。  おっと、自己紹介が遅れた。僕は霧山羽努介(きりやまばどすけ)。見ての通り、人間のふりをしている神様だ。  なぜ人間のふりをしているかは聞かないでほしい、まぁ神様も全知全能に飽きたのだ。  で、いざ日本にやってくれば、特に何があるわけでもない。日々楽しいし、苦しい。  だが、そんなのも毎日続くと飽きてくる。暇だ。いや、この表現は正しくない。飽きたのだ。 「ヤルダバオト……。お前はいいよなぁ」  空に向かって呟く。  ヤルダバオトというのは僕が神様だった頃の友人だ。いや友人じゃない。強いて言うなら宿敵(ライバル)だ。  彼は限りなく僕に近い力を持った悪魔だった。偽物の僕みたいなものだ。だから興味があり、戦った。  だが彼は僕とは決定的に違うものがあった。それは彼が一日一日。一瞬一瞬を全く違う視点から捉えることができる人物だったということだ。  つまり、彼は人生において飽きることがない。本来なら彼が神様に相応しいのかもしれない。  そんな彼を倒し、神様をやるのにも疲れた僕はこうして日本で何もない日常を送っている。  だが楽しみに飽きると、同時に嫌なものがバンバン見えてくるようになる。  アパートで隠れる太陽。学校をサボってラブホテルへ入る高校生。昼間から酔っぱらっている中年。  もう何もかもどうでもいい。いっそ死んでしまって、ヤルダバオトなりメタトロンなりに新しい神様になってもらおうか……。  そう言えばメタトロンはアザエルという魔王に敗れたんだった。愛に敗れたのだからあまり気にしないが……。  ふとホームで、おっさんが少女をナンパしているのが目に入った。  少女は嫌がっていると言うより、応戦し、喧嘩上等と言わんばかりだ。  くだらない。何が悲しくてそんなことをしているんだ。  もう嫌だ。電車がもう来る。とっとと帰ろう。  カバンを掴み、おっさんと少女のやり取りを鼻で笑いながら電車に乗った。つもりだった。
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