それは我が侭な贅沢

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    何か柔らかいものに触れた感覚がしたが、次の瞬間には意識が一瞬消し飛んでしまっていた。 きっと霊夢が助けてくれたのだろうと思うので、心の中で礼だけは言っておく。 しかしあの浮遊感の後の高揚感?…的なものは何だったのだろうとしばし考えに耽っていたが、しばらく時間が経った頃、天子はふと振り返り、 「ね、霊夢。また来るね」 「ん。来たけりゃ来れば?」 いつもと変わらぬその返答が、いつもとは比べ物にならないぐらいに嬉しく感じられる。 天子は残った頬の痛みを感じながら、笑って夜空に飛び上がった。 迷惑な天人が帰ってから、数十分ほど経って。 「あー、全く、お前って奴はホントに考えなしだよな!」 「なによ、あんただって似たようなもんでしょ!?」 酔いつぶれて寝こけている霊夢の耳に、友人たちが言い争う声が聞こえてくる。 「真人間になれると思う、って、普通そんな言い方するか!? 馬鹿にされてると思われたってしょうがないぜ!」 「そういうあんただって売り言葉に買い言葉で相当酷いこと言ったじゃないの!」 「ええいうるさい、とにかく今は天子を幽香に会わせないこと最優先でだな」 「そうね、あいつの前で『私を引っ叩きなさい』なんて言ったらどんなことになるか」 「そうそう……って、なんだこりゃ!?」 魔理沙の声がすぐ近くから聞こえた。呻きながらうっすら目を開くと、アリスと並んで縁側に立って、呆然とこちらを見ている。 「おいおい霊夢、いくらなんでも飲みすぎだろこれは! それも一人で!」 一人じゃないっての、と思いながら、霊夢はくすくすと笑う。どうもこの二人、天子が幽香に半殺しにされないかと心配で、今まで飛び回っていた風なのだ。 (友情だか罪悪感だか責任感だか知らないけど、案外律儀な連中よねえ)
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