それは我が侭な贅沢

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「なに」 「どこかへお出かけですか」 「見れば分かるでしょ」 苦笑しながら天子が言うと、召使は不思議そうな顔をする。いつもよりもこちらの機嫌がいいことに、気が付いているのかもしれない。そう思ってみると、「こいつも私のこと心配してくれてるのかなあ」と、今更ながらに気づかされる。だから、 「別に、心配しなくていいわよ」 最大限声音が優しくなるように努めながら、天子は言う。 「比那名居の我がまま娘は、あんたが止められるような大人しいお嬢さんじゃないのよ。なんせ不良天人ですからね、誰が何言ったって好き勝手に行動するの。だから、私を止められなかったからって怒られても、堂々としてればいいのよ。大体にして、別に前みたいな異変起こしに行くわけじゃないし。だからあんたも、そんな風に縮こまらなくてもいいのよ」 意外なほど、すらすらと言葉が出た。その事実がなんだか嬉しくて、天子はにっこりと笑う。
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