第壱冊

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「うわあ、凄い人の数だぁ……」 そんな酒場であまりの人の数に圧倒される一人の青年がいた。いや、青年と言うには少し若いだろう。 他の屈強な男達と比べても明らかに細身の青年は、おどおどとしながらぼさぼさの長い前髪の奥にある鳶色の瞳で知り合いの姿を探していた。 この鼻にそばかすの浮いている青年はまだ遺跡発掘を始めてから半年もたっておらず、まだ独立もしていない。 今は熟年の遺跡発掘人につきそのプロセスを学んでいる段階だった。 今回初めて穴熊の会なるものに参加したのだが師とはぐれてしまい、今に至るというわけだ。 「おっと、悪い」 探し始めて十五分。 未だに見つからない師、全く知り合いのいない中で自分はどうすればいいのかと途方に暮れていた時だった。 そんな声と共に後ろから人がぶつかって来たのだ。 思わずつんのめりそうになった青年は少し涙目になりながらもその声の人物の方に振り返った。 「大丈夫だったか?」 そこに立っていたのは何とも不思議な容貌の男。 まず目を引くのはその髪型。右半分は明るいオレンジ色であるにも関わらず、右半分は真っ黒。 丁度頭中心あたりから綺麗に分かれている。そして色が変わったあたりからガラリと髪型すらも異なっているのだ。顔はある程度整っているにも関わらずその印象が強すぎてそこまで思考が至らない。 服は至って普通の革製のコートを着ているのだが身長も高く、青年とは頭一つ分も違う。
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